教育・学習支援T・Kさん

 私は長野県で大学生活を過ごす中で、山に囲まれた自然環境に魅了され、博物館学芸員資格を取得あたって「山」をテーマとした山岳博物館での実習を希望しました。
 実習では、博物館の役割の3本柱と呼ばれる「資料の調査・研究」「資料の収集・保存」「教育普及・展示」のそれぞれの側面について、実際に体験しながら学ぶことができました。
特に印象的だったのは「教育普及・展示」の活動として、実習最終日に行われた「スポットガイド」。館内の展示の中で、自分が特に説明できそうな部分について、ほかの実習生を来館者に擬して実際にガイドを行いました。大学で人文学を専攻している私は、3階(北アルプス展望フロア)における「山の名前」に関する文献学的な説明に加えて、1階(人文学系展示)で「針ノ木峠」を題材にした山と人との関わりの歴史の説明を実施しました。「説明技術」に関わる部分では、制限時間を気にかけつつ、一方的な説明にならないように、簡単な質問や問いかけを挟むなど、実際に説明を聞く人の視点に立って自分のガイドを考えるということの重要性を感じました。また、「説明内容」に関しては、「山名の由来」「山と人との関わりの歴史」に関する内容そのものを、いかに分かりやすく説明するかという点はもちろんのこと、そうした内容がどのような研究に基づいて明らかにされてきたのか、という学問の方法論的な部分に関する説明も試みました。実際にフィールドに出て行う体験等が比較的行いやすい自然科学系分野に比べて、人文学系分野はそうした実践的な学びの機会が少ないように思います。しかし、ガイドにおいて研究の「方法」を一緒に説明し、来館者自身に実際に思考してもらうことで、より印象的なガイドが行えるのではないか、という可能性を感じました。
 先に述べた博物館の3つの側面-「資料の調査・研究」「資料の収集・保存」「教育普及・展示」-そのいずれかが欠けてしまえば、博物館が機能しなくなるというのは、当然のことです。しかし、それゆえ学芸員の方々は非常に多くの仕事を抱えています。「いかに精確な調査・研究をして新たな見識を得るか」だけを意識するのでなく、また「どのように教えるか」だけを意識するのでもない。実に様々な多様な仕事をこなさなければならないことを理由に、学芸員の方々は「雑芸員」とさえ呼ばれることがあります。しかし、それは「雑多」というマイナスイメージをもった語で以て語られるべきことではなく、職能が「多彩」であるということに他なりません。実習を通して、そんな多彩な職能をもつ学芸員という職業に憧れを抱き、機会があれば将来は博物館に関わりたいと、今はそのように思っています。
 最後になりましたが、コロナ禍の厳しい状況の中、実習を受け入れてくださり、また実習中も丁寧にご指導いただいた山岳博物館の皆様に心から感謝申し上げます。

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