スタッフブログ父親の愛情

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 春の天気は変わりやすいといいますが、3月に入ってから、冬と春を行ったり来たりの天候が続いています。見事に晴れてとても暖かくなり、残っていた雪がだいぶ融けてきたかと思うと、その翌日には天気が一変、1日中雪が降り続いて防寒着が手放せなくなってしまうほど寒さが厳しくなるなど、なかなか真っ直ぐに春はやってこないようです。

 さて、今回ご紹介するのは、そんな春の天気のように気分が変わりやすい、ニホンカモシカの“さつき”です。母親の“峯子”と父親の“クロ”から2004年に付属園で生まれ、人工哺育で育てられたさつきは、とても気分屋な性格です。機嫌が悪いときは、名前を呼んでも知らん顔でまったく相手をしてくれず、少し近づいただけで怒ってしまうときもあります。また、人見知りなところもあり、初めてのひとには少しよそよそしいのですが、見慣れたはずの飼育員でも、数日会わないと距離を取られることがあります。しかし、普段は名前を呼ぶと近づいてきて「撫でて!」と甘えてくる、とても人懐こい性格です。左の写真のようにお客様側のフェンスのすぐそばまでやってきて、鋭い角をこすりつけることもありますので、ご観覧の際は顔や手を近付けないようにお願いいたします。
 ところでこの写真、実はもう1頭カモシカが写っているのです。さつきの右側、金網の向こう側に小さくぼんやりといるのですが、お気づきでしょうか。その正体は右の写真、先ほど名前が出てきた、さつきの父親である“クロ”です。野生から導入された時にはすでに成獣だったため、正確な年齢はわかりませんが、推定35~37歳という、とても長生きなカモシカです。クロは、昨年の11月に体調を崩し、さつきの展示場のすぐ裏にある屋内施設に移動させて治療をおこなってきましたが、無事に回復し、暖かい日中は屋外に出すことにしました。親子とはいえ、クロとさつきはおそらく初めて顔を合わせるため、金網越しに見える相手にどんな反応をするだろう、と少し心配していましたが、ケンカをすることもなく、パニックになることもなく、無事に顔合わせをすることができました。これで一安心と思っていたのですが…
 外に出るようになったクロは、さつきの展示場とのあいだにある金網の前がお気に入りのようで、そこで1日の多くの時間を過ごすようになりました。なにをしているのかなと見ていると、金網越しにさつきをじーっと見ていたり、前肢で金網を「邪魔だよ」と言わんばかりに軽く蹴ってみたりと、とにかくさつきのことが気になっているようです。先輩飼育員に話を聞くと、クロはさつきの母親である峯子のことがとても好きだったようで、以前隣同士の飼育場で飼育していたときに、あいだに取りつけた板の、ほんのわずかな隙間から、峯子のほうをずっと覗いていた、ということがあったそうです。私はその様子を見たことはないのですが、さつきへの反応を見ていると、何だかその光景が目に浮かびます。大好きな峯子の面影をさつきの中に見つけているのか、自分の娘だと理解してそっと見守っているのか、ただただ興味の対象として観察しているのか…。本当の理由は聞いてみないとわかりませんが、さつきへの深い愛情を感じます。一方のさつきは、ほとんどクロに興味がないようで、父親の愛情はどうやら娘には届いていないようです。さつきも少し相手をしてあげたらいいのに、いや、クロがしつこすぎるのかな、クロが元気になって本当に良かったと思いながら、あまりに一方通行な父親の気持ちに、ちょっとだけ切なくなってしまうのでした。

内田木野実

投稿者内田木野実

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