スタッフブログフクジュソウ種子とアリとの関係

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フクジュソウの果実(痩果=そうか)には、仮種皮の部分にエライオソームが認められ、それをえさとするアリによって巣に運ばれることが知られています。しかし、どの種類のアリが種子散布に効果をもたらすのか、について研究された例はほとんどありません。このことから、山岳博物館では、フクジュソウとアリとの関係について北安曇郡白馬村にある姫川源流で長年、調査をしてきました。
平成26年からは、連携・協力協定を締結した長野県環境保全研究所といっしょに調査を進め、100地点以上でアリの出現を記録し、これまでの結果をもとに、吉村正志先生(沖縄科学技術大学院大学)と上田昇平先生(信州大学理学部)にアリの同定をお願いしたところ、姫川源流には、アメイロアリ、アズマオオズアリ、トビイロケアリ、ツボクシケアリ、ムネアカオオアリ、ハヤシクロヤマアリ、ヒラアシクサアリ、ヨツボシオオアリ、クロクサアリの9種が生活していることがわかりました。
エライオソームは、アリを誘引しますが、フクジュソウと同じ春植物で、アリ散布植物のカタクリの場合はエサとしてアリを誘引するのではなく、まったく異なる誘引機能を果たしている可能性を指摘する研究があります。しかし、姫川源流や博物館で確認したアリの行動から、フクジュソウのエライオソームについては、アリ類にえさとして認識されているものと考えられます。
アリによる種子散布の効果は、アリの種によっても異なりますが、エライオソームを取り除いた後に種子を捨てることが知られていて、捨てる場所は塩基類に富むことから、実生の成長に有利であるとされるほか、被食者からの回避、種内競争または親個体との競争からの回避などをあげる研究もあります。
一方、アリの散布は、巣のなかや捨てる場所に同じ種類の植物に限らず種子を集中させ、発芽した実生が込み合ってしまうと指摘する研究もあります。ところが、アリによっては運搬距離に応じて種子を紛失する割合が高まることがあり、結果として分散の効果が得られているとする研究もあって、いずれにしても、生育の範囲が広がり、新たに生育する環境を獲得しているのではないかと考える研究者もいます。
博物館ではアリの調査とあわせて、発芽実験も行いました。その結果、種子の保管温度や乾燥が時間経過とともに発芽能力に影響を与え、低下するのではないかという結果が得られました。この結果はまだ推測の域にすぎませんが、カタクリでは、種子が25℃を超える温度に長期間晒されたり、乾燥したりすることで発芽能力を失うとする研究があり、フクジュソウ種子においても同様な影響を与えるか否かについては、十分な反復実験を行ったうえで言うべきですが、高温や乾燥が影響を及ぼすのであれば、適度な温湿環境が保たれるアリの巣内への運搬やリター下への埋没は、フクジュソウの種子発芽までの間、有利に働くと考えられます。
アリとフクジュソウとの相利共生関係については、さらに実生個体の成長に及ぼす発芽深度の影響だったり、アリからみたエライオソームの有益性だったり、クリーニング効果や種子紛失頻度、地表徘徊性の種子捕食者と一日を通した種子散布パターンの面からも考える必要があります。
これらの解明は容易なことではありませんが、アリと種子散布の関係はとても興味深い事柄ではないでしょうか。

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