市立大町山岳博物館 平成30年度企画展北アルプスの誕生 激動の500万年史

開催期間 2018年7月21日(土)〜11月25日(日)

北アルプスの誕生 激動の500万年史

会期2018(平成30)年7月21日(土)〜11月25日(日)※ 会期中の月曜日、祝日の翌日は休館。ただし、月曜が祝日の場合は開館し、翌日休館。なお、7・8月は無休
開館時間午前9時〜午後5時 (入場は午後4時30分まで)
会場市立大町山岳博物館 特別展示室
観覧料大人400円 高校生300円 小・中学生200円 ※ 常設展示と共通、30名様以上の団体は各50円割引そのほかの各種割引については窓口でお問い合わせください
企画市立大町山岳博物館
分担執筆原山 智(信州大学名誉教授)

日本の山

本州中央部

日本は山国ですが、標高1000m以上のところは国土の6.6%、2000mを超える山岳は1.3%にすぎません。それらは本州中央部に集中し、列島の幅も最大になることから、本州中央部には著しい隆起傾向が予測されます。

中央分水嶺

中央分水嶺は日本海水系と太平洋水系をへだてる稜線で、細長い日本列島にほぼ平行にのびています。不思議なことに、北・中央・南アルプスは中央分水嶺ではなく、その分枝でありながら、日本最大の山岳地帯をつくっています。

日本の山

山と気候

山は気候に大きく影響し、冬季には、ほぼ中央分水嶺を境に日本海側は世界屈指の多雪地帯になります。北アルプスは、この多雪地帯へ半島状に突き出ていて、北西の季節風をさえぎる「防波堤」のような山脈です。そのため、西斜面は"超多雪地帯"になっています。

山と気候

北アルプスのかたち

山のかたちは、一般に、とても複雑です。北アルプス北部を横断する7つの地形断面を重ね合わせると、いずれも形がよく似ていて、全体としては「かまぼこ」型であることがわかります。「かまぼこ」型の山は、曲隆山地と呼ばれます。よく見ると、西側に比べて東側の斜面が急で、短くなっています。これは、主稜線が東に偏っていて、山脈が非対称であるからです。

北アルプスのかたち

北アルプスの誕生

北アルプスの誕生

1. 飛騨半島[ 500万〜250万年前 ]

この頃には信州と富山に海が入り込んでいて、北アルプスは古日本海へ突き出た半島でした。東西の海には、寒流系の生物が棲んでいました。川から運び込まれる土砂は比較的細粒で、飛騨半島の山々はまだ低かったことが分かります。

飛騨半島

2. 第1隆起[ 250万〜150万年前 ]

北アルプスが急速に隆起しはじめ、海抜1000mほどになります。山から流れ出す多量の土砂が海を埋め立てて平野になり、川がより大きな礫を運んできました。山脈中軸部には、槍・穂高岳周辺に加え、爺ヶ岳周辺にも巨大カルデラができました。世界的にもまれな破局的噴火を起こし、大規模火砕流は一瞬のうちに富山県や新潟県へ流れ下り、火山灰は金沢や東海・関東、遠くは男鹿半島にも降り積もりました。山脈の隆起の原因として、地下深部のマグマや高温岩体の浮力が有力視されています。

第1隆起

3. 第2隆起[ 150万〜60万年前 ]

北アルプスが激しく隆起して雄大な山脈になりました。山脈東半部の回転隆起によってカルデラに堆積した地層が80°も傾いたり、槍穂や爺ヶ岳のカルデラの地下数kmでできた花こう岩が地表に露出しました。地表にある花こう岩では、それぞれ世界一、二の若さを誇っていて、激しい隆起運動を物語っています。この時代の堆積物と思われるのは、東山でみつかる"山砂利"です。北アルプスから土石流で運ばれてきた直径3mに達する礫で、この時期に北アルプスが激しく隆起した証拠の1つです。山岳化の原因としては、マグマなどの浮力のほか、横からの圧力が重視されています。

氷河時代

4. 氷河時代[ 60万年前〜 ]

山岳化した北アルプスの中軸には乗鞍火山列、東麓には安曇野や白馬盆地ができました。この頃に地球は氷河時代を迎え、激しい寒暖をくりかえしました。もっとも新しい氷期のうち、北アルプスでは6万年前と2万年前の寒冷期にできた氷河地形が美しい山岳景観をつくりました。河川がつくる地形はV字谷と丸みのある稜線ですが、氷河はU字谷と鋭いナイフリッジをつくります。3つ以上の方向から氷食されると尖塔(ホルン)ができます。
北アルプス縦走路の大スペクタクルの多くは、ピークをなす尖塔と両側から氷食された氷食鞍部(吊尾根)の組み合せでできたものです。

第2隆起

地球の宝石

氷期の氷河

氷期の氷河

氷河地形の分布と年代から、6万年前に氷河が最も拡大したことが分かりました。北アルプスには、中央・南に比べて、たくさんの氷河があり、重たい氷体に侵食されて"彫りの深い"美しい峰々ができました。

多雪のしくみ

多雪のしくみ

中緯度の温暖な日本が、世界でも稀な多雪帯なのはなぜでしょう?冷たく乾燥した北西の季節風が、対馬暖流から大量の水蒸気をもらって雪雲をつくり、中央分水嶺へ押し上げられてたくさんの雪を降らせるからです。500万年の時間をかけて3千m級の山脈になった北アルプスは、この多雪地帯のまっただ中にあって、日本海の雪雲を集めて急上昇させるために、超多雪域になっています。

今と生きる氷河と自然

今と生きる氷河と自然

現在、ユーラシア大陸東半部には2つの氷河群があります。"高緯度グループ"は北極圏とその周辺に分布し、寒さのために低いところにも氷河があります。"中緯度グループ"は、中央アジアのヒマラヤやチベットなどの寒冷な高山に分布しています。2つのグループの南東側に氷河はなく、東アジアは東西4000kmの無氷河地帯になっています。その東端の、太平洋に浮かぶ日本列島で最近発見された氷河は、大きな驚きです。東アジア唯一の氷河群が存在する基本的原因は超多雪にあり、氷河が今も生きている北アルプスの自然の貴重さもよくわかります。

総合研究と保全・活用

北アルプスの自然は、「地球の宝石」とも言える貴重な存在です。もし地球温暖化が進んでいくと、氷河が現存する北アルプスの北部が、高山植物やニホンライチョウの最後の砦(避暑地)になるかもしれません。そうならないためにも、総合的で恒常的な研究体制を整備して、北アルプスの自然史と現状、そして、自然のしくみを解明し、保全と活用へむけた幅広いとりくみが待望されます。

総合研究と保全・活用

北アルプスの地質研究の大切さ・面白さ、到達点と今後の展望

原山 智 (信州大学名誉教授)

北アルプスの地質について研究を始めた1973年当時、登山道に沿った地質の記録があるだけでした。北アルプスは日本に残された地質情報の空白地域だったのです。地質データを収集するには、登山道以外の谷や尾根に露出する岩盤を観察する必要がありましたが、険しい山脈がそれを阻んでいたのです。

山岳地域でどうやって地質踏査を進めるか?私が選んだのは春~夏にかけて谷に残る残雪にルートに沿って踏査を行うことでした。雪崩のおさまる時期を待って谷にはいれば、踏査を阻む滝や急流も全て雪の下です。谷の側面には岩盤が露出していますし、藪こぎからも解放されます。加えて日照時間の長いこの時期は、効率よく広範囲の踏査を行うには最適の時期だったのです。

北アルプスの地質を研究する上で魅力的なのは、岩盤の露出率が高いことです。特に森林限界(標高2500m前後)を超える山岳地帯は地層や岩石が連続して露出し、地層の配列や岩石の分布状態が遠望するだけでわかることがあります。笠ヶ岳や槍・穂高岳にはかつてのカルデラ火山の断面が見えていますし、薬師岳の黒部川斜面には恐竜時代の地層が大きく曲がって(褶曲して)いる様子が手に取るようにわかります。

調査を始めて18年目、大きな発見がありました。地表に露出した花こう岩としては世界最新、第四紀(260万年前〜現在)の花こう岩の発見です。3km以上の深い地下でできた花こう岩が露出するには、隆起して侵食作用が働く必要があります。第四紀花こう岩が露出するには、急速な隆起が生じて地下の花こう岩を押し上げる必要があるのです。これをきっかけに北アルプスの成り立ちについての研究は、大きく進展しました。花こう岩を作ったマグマの上昇と、マグマの脇に生じた断層がせり上がる動きをする(衝上運動)ことで北アルプスが3000m級の山脈に成長したことがわかったのです。つまりマグマとプレート運動(圧縮力)が山脈隆起の原動力だったのです。それは150万年前から60万年前に生じた事件でした。

北アルプスの東側には第四紀花こう岩と同時期に活動したカルデラ火山があり、この火山岩層が東に大きく傾いていることで、隆起は南北の水平軸に沿った回転を伴うこともわかりました。そして最も気になる未解決問題は山脈の西側の隆起です。立山や剱岳を含む山並みがいつどのようにして隆起してきたのか、これはカルデラ火山のような基準がないだけに困難な課題として立ちはだかることでしょう。

関連催しご案内

オープニング記念「ミュージアムトーク」

内容企画展の概要をご紹介・解説します。
日時7月21日(土)10:00と14:00の2回(各約20分)
対象どなたでも / 事前申込:不要 / 費用:通常入館料

夏休み子ども夏季大学「親子の化石教室-信州が海だった頃」

内容500万年前の地層見学と化石採集
日時8月5日(日)10:00~12:00
見学地小川村立屋[立屋展望広場 集合・解散]
対象・定員小学生とその保護者 / 先着10組20人
申込期間7月1日~25日 / 費用:不要 / 詳細:お申込の方へ郵送
雨天「親子の鉱物教室-地球の宝石箱づくり」(当館講堂、日時は同じ)

北アルプス地質見学登山「爺ヶ岳にカルデラ湖があった頃」

共催長野県山岳総合センター・山岳博物館友の会
内容200~160万年前の爺ヶ岳巨大カルデラの地質見学
期日8月18日(土)・19日(日)[柏原新道 - 爺ヶ岳 / 種池山荘泊]
講師原山智先生(信州大学特任教授)
対象・定員爺ヶ岳1泊登山が可能な方 / 先着20 or 15人
概算費用20,000円 / 申込期間 7月1日~31日 / 詳細 お申込の方へ

企画展特別講演会「地質探偵ハラヤマ先生:北アルプス研究の最前線を語る」

北アルプス地質研究の第一人者にわかりやすくお話しいただきます。

共催山岳博物館友の会
日時10月21日(日)13:30~15:30
講師原山智先生(信州大学特任教授)
会場市立大町山岳博物館講堂
対象・定員どなたでも / 先着30人
申込・費用9月1日午前9時から / 費用 通常入館料

秋のティールーム「北アルプスのふしぎ」

内容企画展解説「北アルプスができるまで」(当館専門員)
こんだん会「北アルプス -こんなことが知りたい- 」
日時11 月4日(日)13:30~15:30
会場市立大町山岳博物館講堂
対象・定員どなたでも / 先着20人
申込9月1日午前9時から
費用通常入館料 + 茶菓代(300円)

関連資料

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