日本アルプス・富士山・白山・研究室発 高山の自然は今・・・ -そしてその未来は-
平成21年10月10日(土)〜12月20日(日)
3,000m級の山々が連なる日本アルプスは北アルプスの飛騨山脈、南アルプスの赤石山脈、中央アルプスの木曽山脈からなり、日本の屋根を形成しています。それらの山々の山頂部には森林は見られず、高山帯が発達しています。これは世界的に見ると実は珍しい光景なのです。本州中部山岳では2,400m以上に高山帯が発達しますが、世界の屋根ヒマラヤでは4,000m以上にならなければ高山帯は発達しません。
日本アルプスの高山帯は複雑な山岳地帯に発達し、植生は地形や方位による消雪時期の違いや、地質などの違い、冬季は常に強風の季節風などの気象により、ハイマツ群落、風衝群落、高山荒原群落、雪田植物群落などが複雑なパターンで分布し、実に美しい高山の景観を作り出しています。また日本に産する高山植物は400種を超え、うち半数以上は日本固有種であり、その多くを見ることができる日本アルプスは種分化に大きく貢献してきたと言えます。そして中央アルプスでは絶滅しましたが、北アルプスや南アルプスには、今も氷河期からの遺存種であるライチョウが生息し、その分布は日本が南限です。ライチョウにとっても高山は唯一残された生息域として重要な役割を果たしてきました。このように日本アルプスにおける生物多様性は世界的に見ても如何に貴重なものであるかがわかります。 しかし、今、日本アルプスをはじめ富士山、白山の高山環境の様相は、様々な要因によって変化していることが指摘されています。それはまず地球規模による温暖化の影響を挙げることができます。
北アルプスの涸沢カールや白馬岳大雪渓、鹿島槍ヶ岳カクネ里などでは40年前に比べ雪渓の範囲が縮小し、富士山では永久凍土の下限が1976年に3,100m付近であったものが、1998年には3,200m付近となり20年あまりで100mも上昇したことが明らかになりました。生物にも影響が出ています。ハイマツの年枝伸長は前年の夏季の温度が影響していますが、北アルプス乗鞍岳では40年前と比較して1.5倍の伸長量が確認されています。このままの成長を続ければ高山植生のバランスが崩れるのではないかと心配されています。ライチョウの間では、温暖化にともない低地の鳥感染症が発症する可能性が指摘され、山岳博物館によれば低地飼育下で判明している死亡原因は感染症によるものが最も多く、発症は個体数の減少に繋がる恐れがあります。 つぎに動物の生息域の変化が高山帯の自然に新たな脅威となっていることが挙げられます。各県において林業や農業に甚大な食害をもたらしているニホンジカは現在、個体数調整が行われていますが、移動範囲は消雪した高山にまで及ぶようになり、南アルプスでは高山植生の改変をもたらしています。 さらに直接的な人間による影響も挙げられます。登山道の雨による洗掘や登山者による植生の踏みつけで出来た裸地や道幅の拡大。高山に至る道路建設により低地性の植物や外来植物の種子が乗り物を介して運ばれ、登山者も低地で衣服や靴などにそれらの種子を付け運んでいます。また山小屋等の建設で荷揚げされた資材や土壌にも種子が混入していることがあります。いずれにしても高山ではこれらの植物が定着するようになりました。そして白山では低地性のオオバコと高山性のハクサンオオバコとの間で雑種ができ、はるか昔から連綿と育まれてきた遺伝子が失われてしまうのではないかと懸念されています。 本企画展では日本の高山で、今何が起きているのか、その未来は?そして私たちは何をしたらいいのか?を皆さんと一緒に考えて行きたいと思います。 本企画展は、大町市が平成14年に山岳博物館創立50周年を機に、自然と人とが共生する「山岳文化都市」の宣言に則り行うもので、本企画展を通して、多くの方に高山環境への理解を深めていただき、それらを維持するためにはどうすれば良いのかを考えてもらう機会を北アルプスの麓、大町市から発信するものです。